サ
サバさん (8s8sijdp)2024/7/15 22:47削除ここに貼っちゃうね~! サバ⑧読んでくれてありがとおおおおおお
涼馬と楽のほんわか話(楽がもどってきたばかりの頃、寮の部屋にて)
楽がもどってきたばかりの頃、寮の部屋にて
涼馬、ベッドに座る楽の、背中の包帯をはずしながら。
ーーー
「涼馬さぁ、ディフェンダー志望じゃなくて、アタッカーでしょ? こんなコトしなくていいんだけど」
「オレは次、守もダブルAとるつもりなんで」
「あ、そ。さすが優秀生」
涼馬、背中に走る手術痕をじっと観察する。
「……すごいアトが残りましたね」
「涼馬だってあちこち傷だらけでしょ」
二人とも、沈黙。
涼馬がガーゼを貼りかえるあいだ、楽はタブレットをのぞきこむ。
「なに見てるんですか?」
「秋合宿のラスト、遊園地のときの写真」
「ああ……、七海さんが共有したって言ってましたね」
「――すごいね」
「なにがです?」
「涼馬、これ、すっごいふっ飛んでる」
芝そりゲレンデで、コケた紫に巻きこまれた写真を拡大された涼馬は、目をすわらせる。
「これは、うてながお菓子食いながら、芝ソリを始めたんで、『アブねぇぞ』って注意しようとしたんですよ。そしたら、直進方向の紫が思いっきり転倒して……、巻きこまれました」
「はははっ、アタッカーリーダーが前方不注意だ」
「反論できません……」
楽は次々と写真をスライドする。
「ほんと、みんなすごい笑ってるよね。……入院中、こよみといっしょに、このアルバム、百回以上見たよ。これはだれだそれはだれだって説明させられてさ。――楽、友だちいっぱいできたんだねって」
「ともだち」
「けど、『友だち』って、なんかちょっとちがう感じするよね。なんて言えばいいのかな」
涼馬は包帯を巻きなおしながら、考える。
たしかに、S組のメンバーを思い浮かべて、「友だち」と言うとしっくりこない。
「仲間」なのはまちがいない。
けれど……、なんだか、それだけで言いきれないような気もする。
涼馬と楽は二人で、写真の中の笑顔を見つめる。
みんなはじけるような笑顔だ。
マメたちがよく、楽のことを「S組のお母さん」なんて呼んでいる。
じゃあ、「家族」?
(でも、この人とおれは……)
それぞれにためこんでためこんでためこんできたモノに、おたがい触れあわない距離を保って、同じ部屋ですごしてきた。
この人の底知れないところを、怖いと思うこともあった。
「家族」と呼ぶには、遠かった。
遠かったから、狭い部屋に二人でも、おたがいに息ができていた。
でも――。
涼馬は楽の生々しい傷あとに手をおく。
この人が、こよみのために、自分自身のために流した涙を、見られてよかったと思った。
今、こうして無防備に背中の傷をまかせてくれているのが、うれしいような気さえする。
背中に手を置いたまま動かない涼馬に、楽がふしぎそうに振り返る。
「ん?」
「いえ、なんでも……」
涼馬は手早く包帯を巻きつけなおし、わざと強めに背中をたたいた。
「できました」
「痛ッ!」
「リハビリがたりないんじゃないですか」
「生意気言うようになったよねー。ぼくはまだまだ、涼馬に負ける気なんてないけど? 筋トレ競争でもする?」
「しません。空知先生に怒られますよ」
「えー?」
「ゲームで競争でいいです」
「なんだそれ」
楽がふはっと笑い、Tシャツを着てから、二人でベッドに座りなおす。
シューティングゲームを用意する涼馬に、楽が、ぽつり。
「ぼくさぁ、涼馬のこと、めちゃくちゃに甘やかしてやりたいんだけど、どうすればいい?」
「――え?」
振り返ると、ほおづえをついた楽は優しい瞳の色。
「…………そんなの……」
涼馬はうつむき、ギュッと奥歯を食いしばる。
しばしの間。
涼馬は顔を上げて、ニッと笑ってみせる。
「そんなの、ゲームでいいですよ」
「あー、はいはい。わかったよ。やろうよ、ゲーム。涼馬が勝つまでつきあってあげる」
対戦型の飛行機シューティングゲームを始める二人。
もくもくと高得点をねらって攻め込んでいく。
しばらくビームの効果音だけがひびく。
そこに、今度は涼馬がぽつり。
「……あの。生きて還ってきてくれて、ありがとうございました」
楽はびっくりして、コントローラーの手が止まる。
ちゅどんっ。
「あっ!」
楽の機体が爆破されている。
その隙に涼馬はみるみるポイントを追い上げる。
「あーあ。楽さん弱くなったんじゃないですか? 一回目でおれの勝ちですね」
「ハー!? ズルだろ今のっ。かわいくないなー!」
「おれがかわいくてどうすんですか」
楽の反撃で、あっという間に同点に。
ムキになった涼馬、さらに追い上げ返す。
そうして寮の夜がふけ――。
翌朝。
「楽~? 涼馬くーん? 朝ごはんの時間終わっちゃうけど、起きてるー?」
ナオトのノックの音に、コントローラーを持ったまま寝ていた二人は、ガバッとベッドから起き上がったのでした。